「環境のスペシャリスト」として、1970年創業以来、産業廃棄物の適正処理・リサイクルを中心に事業展開してきた株式会社興徳クリーナー。3代目で取締役、統括部長である片渕氏は、廃棄物を“有用な資源”と捉え、「新たな製品の原料」として再利用するリサイクルの研究開発に力を注いでいる。特に、フッ素を廃液から回収しリサイクルするという独自のクローズドループを実現させ、循環型社会形成への貢献を目指す。
柔道で海外留学、指導者としての経験もある片渕氏に、リーダーシップを発揮するための学び、新たな取り組みに対する想いなどを聞いた。
やりたいことができない、まず「会社」と向き合うことに
Q どのようなきっかけで家業に入社したのですか。
A 簡単に言うと、両親に「帰ってこい」と言われました。
前職の仕事の出張で半年くらい沖縄にいるときでした。父と母が来て「営業が1人やめるから」と。ずっと父を見ていたので、会社経営には元々興味があり、「わかりました、帰ります」と返事をしました。
帰ることに対しては、嫌な思いとか不安というよりも、楽しみでわくわくした気持ちの方が強かったと記憶しています。
Q:実際に入社されてどうでしたか?
A:全く自分の思うようにはなりませんでした。
実は柔道で留学する前に資金が必要で、今の会社の工場でアルバイトしていたことがあり、工場現場を少し知っていたんです。でも営業として入ってみて、あらためて難しいなと思いました。営業は人とのコミュニケーションがメインの仕事。社内でまず根回しやお願いをして、たまにはけんかというか言い合いになることも。自分の中では工場と営業、研究開発がもうバラバラで、やりたいことがあってもなかなかできない。ムダな縦割りが多いと感じていました。また親の会社に帰ってきているのだから、言ったとおりに進むだろうという甘い考えがあったのも事実。あとは「社長の息子」という周囲からの目線ですね。当時は、お客さんや同業の人、社内でもありました。
人と向き合い、人を大切にするリーダーになりたい
Q なかなか進まない状況を動かすために、どうされたのでしょうか?
A 「社内での壁」をなくそうと思いました。
僕一人だけでは無理なので、みんなに協力してもらって一致団結することがいちばん重要だと思いました。大手ではないので、工場、研究開発、営業がそれぞれやっていたのでは、時間がいくらあっても足りない。そのために、営業も工場も研究開発もすべて見るという立場の統括部長になり、各部署と積極的に話をするようにしました。いわゆる「なんでも屋」です。
Q 社内で「リーダーシップを発揮すること」について、具体的なノウハウは?
A まずは柔道、そして父とお客さまからも多く学びました。
柔道でも仕事でも、対面に相手がいて、自分の思い描いた通りに持っていくっていう意味では同じ。柔道なら相手を投げることで、仕事なら相手を納得させることだと思っています。僕から見たら、山下泰裕さんも井上康生さんも考え方が経営者なんですよ。
あとは、父とよく話すこと。自分で言うのもなんですけど、父とは仲がいいと思います(笑)。職場で話すだけでなく、自分がこの仕事を進めたいという時には、家にも押しかけて口説いたりすることも。小さいころから「リーダーとはこういうもの」という父の姿を見てきたことも大きいと思います。また、父から引き継いだお客さまは、経営者や工場長といった立場の方たちも多く、しかもいろんな業種のお客さまと関わるので、話しているだけで幅広い組織論を教わっている気がします。
Q 3代目として受け継いでいきたいものは?
A 「人を大切に」という経営方針です。
父のいいところは、「人に優しい」ところだと思っています。受け継ぎたいものはいろいろとあるんですが、特に従業員さんとそのご家族も含めて大切にしていきたいです。決して華やかではなく、いわゆる3K「きつい、臭い、汚い」という業界で縁あって一緒に働いていただいているので。今後、業界だけでなく、文化や社会も変化していくかもしれませんが、「人を大切にする」ということは変わらないと思っています。同じように地域との関係性も今と変わらず大切にしていきたいです。
研究開発も、工場も、営業も、みんなが諦めなかった
Q: 新しい取り組みに挑戦することになった経緯は?
A:14年前から諦めずに研究してくれていた優秀な社員がいたんです。
3年前に始めたのは、『Fの循環』と言って、半導体産業の廃液からフッ素を回収しリサイクルするという取り組みです。14年前に大手ディスプレイ会社からの廃液処理のために工場を建設し、そのリサイクルに頭を悩ませてきました。処理した廃液を“みそ汁”に例えると、下にたまる「みその部分」と上の「すまし汁」のように分かれるんです。沈んだ下層部分は、『フッ素資源』として既にリサイクルできていたのですが、上液の部分は窒素の濃度が高くて処理が難しかった。何とか処理しようと考えていた時に、「これだけ濃いのであれば、もう一加工して“原料”として売ろう」という逆転の発想が。研究開発の担当者からも「農業用肥料の原料として売れそうです」という話になったのがはじまりです。廃液の全てを資源として国内で循環させることができる点で「おもしろい、やろう!」と思いました。
Q: 今まで誰も“資源循環の取り組み”はしていないのでしょうか?
A:競合他社はいますが、1社1社の廃液を毎回分析するので、他社より高純度なんです。
実は、どんな廃液に対してもここまでやるというのは大変なんです。それでも事業化できる目途が立ったのは、研究開発が優秀ということだけでなく、工場も、営業もみんなが諦めなかったというところだと思います。まだこれが成功するかは全くわからないですが、研究開発から相談や報告が上がってきたら、工場、営業にも伝えてそれぞれが行動に移す。そうやって部署間の壁を取り払って、うまく循環していくことが重要だと思っています。
Q 『第3回アトツギ甲子園』出場のきっかけを教えてください。
A 事業構想大学院大学の同級生からの紹介です。
『Fの循環』の事業計画を書く練習のつもりで応募したので、ファイナリストに選ばれて、自分自身が一番びっくりしました。元々こういうピッチの場に立つタイプではないので、落ちたら恥ずかしいし、1次選考まで社内でも内緒に(笑)。実際に出てみると、今までにない経験ができたり、個性豊かなメンバーに出会えたり、率直に面白かった。資料を作る段階でいろんな人に見せてフィードバックをもらえたので、この事業を進める上でも、すごくいい機会になりました。以前から研究職などの社員に「ピッチに出た方がいいぞ」と言いながら「自分が出てへんのはあかんな…」と内心思っていたので、今は堂々と勧めています。
Q 取り組み過程でのご苦労や葛藤などはありましたか?
A 前から、そして今も引っかかっていることはあります。
やっぱりみなさん、ゴミにお金はかけたくないんですよね。日本では「廃液を原料にして循環させるリサイクル」をしても、焼却してセメントの原料にするといった「従来のリサイクル」と結局同じと見られて、「こんなにコストがかかるの?」と言われてしまう。その見せ方の難しさはあります。当然、半導体メーカーなど企業のニーズもあるので100社のうち3社でも興味を持ってもらえたら。そこから5社、10社と増やしていくためにも情報発信をして、相手ときちんと話していきたいです。そのためにもテスト段階である『Fの循環』を実現し、施設を作って見せていくことが必要だと思っています。
時代が変わっても、研究開発に自信を持って
Q: 今後の事業イメージは?
A:”エコ原料“など「モノを作る側」になることも視野に入れています。
社会における“モノの流れ”を生物の血液になぞらえて「動静脈連携」と呼ぶことがあります。例えば半導体などモノを作るのは動脈産業、その廃棄物を処理するのが私たち静脈産業なんですが、「動静脈連携」は、モノを作る側も廃棄物のことまで考えるという世界観なんです。同じく私たちも「モノを作る側」になること、つまり廃棄物からいかにスペックの高い新たな原料を作れるのかということで、動脈産業に寄り添える存在になっていく必要があると考えています。
今後も研究開発に力を入れて、廃棄物に限らずいろんな環境問題をみなさんと一緒に考えていくことも大切にしたいです。
Q:若い世代のアトツギへ伝えたいことはありますか?
A:会社を小さくしてもいい。“続けていくこと”が重要だと思っています。
「世の中を変えたい」とは思っていません。1年だけ変えても仕方がないので。自分であれば、54年続いてきた会社の80周年、100周年のことまで考えていく必要がある。「マジで?何歳までこんなに苦しいことを?」と思うんですけど(笑)。
みなさん、結果を求められる世界で、人を雇う苦しさもあって、本当にしんどいと思います。それでも中小企業が日本を作っていくと信じているので、一緒にがんばっていきたいですね。それは自分の家族、社員の家族を守っていくということにもなると思います。
【取材協力】
株式会社興徳クリーナー
〒596-0817
大阪府岸和田市岸の丘町2丁目2−番15号
HP:https://www.kotoku-g.co.jp/
(文・松本理恵/写真・中山かなえ)