公益財団法人 大阪産業局

「どうせなら面白いことを」 木製玩具で世界を目指す(大徳木管工業株式会社 代表取締役 岩川 宏治 氏)

 

プロスノーボーダーとして全日本チャンピオンを極めた経歴を持つ岩川さん。引退後は、好きなスノーボードの仕事に携わる選択肢があったにもかかわらず、電線巻き取りドラムなどを製造する木材加工会社に入社しました。遊び道具を扱うスノーボード業界にうらやましさを感じながら、娘のためにつくった木製玩具の楽しさに目覚めます。そして、家業と遊びが結びつき、木製玩具ブランド「coconos(ココノス)」が誕生しました。「祖父、父が築いた土台を生かして自分が楽しいと思えることができていることがとてもハッピー」と語ります。

 

 

Q 主力製品の電線巻き取りドラムとはどのようなものなのでしょうか。

A 電線を作るための銅線を巻き付ける目的で使われます。

1960年に祖父が木管の製造工場として創業しました。木管は、何かを巻き付けるための管で主に電線巻き取り用のドラムを製造していました。ドラムは、ミシンに使う糸巻き用のボビンを大きくしたもので、電線を巻き付ける芯の両脇に円形のつばがついています。納品先の製線メーカーでは、銅線を引っ張りながら細く加工するためにドラムを高速回転させて巻き取っていきます。こうして細くなった銅線を撚(よ)ったものが電線になります。ドラムには鉄製、木製、樹脂製がありますが、当社で作っている木製ドラムは軽くて丈夫で、鉄のように錆びることがありません。また、使い古されたドラムは分解して修理・再生することができるので環境負荷が低く、コスト面でも安いことも強みです。

 

 

Q 入社するまでは何をされていたのですか。

A プロのスノーボーダーでした。

中学生のときにスノーボードに目覚め、大学時代は学業とアルバイトのかたわら、シーズン中はスノーボード漬けの生活を送っていました。地元(八尾市)のスノーボードショップからスポンサードを受けたことをきっかけに、プロスノーボーダーになりたいという思いが膨らみ、卒業後は就職せずにスノーボードにますます傾倒していきました。2009年のJSBAスノーボード選手権ハーフパイプ種目で優勝したことによってプロライセンスを取得することもできました。ただその後はケガにも悩まされ、年齢と実力からもこれ以上の活躍は難しいと考え引退を決断しました。現役のときには家業のことは全く頭にありませんでしたし、継ぐことはないだろうと思っていました。

 

Q それがなぜ継ぐことに。

A スノーボード関連の仕事に就くことも考えましたがハードルが高いかなと

引退したときに初めて父の会社に入社することも選択肢の一つとして考えるようになりました。スポンサー契約していた企業やスノーボード商材を扱っている企業から「うちで営業をしてみないか」と声をかけていただいたのですが、それまでアルバイトしかしたことのなかった自分が社会人として通用するのか不安でした。引退する前の数年間は家業でアルバイトをしていたので、家業の仕事の内容はおおよそわかっていましたし、ものづくりが好きだったこともあり家業に入ることにしました。実直な性格の父で、私が28歳になるまで何も言わずに好きなことに打ち込ませてくれたことに感謝し、頭を下げて「会社に入らせてほしい」とお願いしました。父も喜んでくれたようです。

 

 

Q 入社してからはどんな仕事を担当したのでしょうか。

A ものづくりの現場に入りました。

父から、「ものづくりを身につけないと食べていかれへんよ」と製造現場に入ることを勧められました。当時の工場は営業・経理を担当する父と、その他事務を担当する母、そして現場にはベテランの職人さんが1人いるだけでした。会社を長く続けていこうと思ったら、私自身がものづくりを覚えるしかないと思っての言葉でした。ただ、マニュアルも手順書もなく、見よう見まねで学んでいくしかありませんでした。一方でものづくりの研修に参加し、機械の扱い方を習得しました。より少ない工程でできる工法を知ることができた一方で、うちの職人さんが独創的な技術で機械の特殊な扱い方ができることが強みであることも確認しました。

 

 

Q 「ココノス」が誕生したきっかけは。

A 娘のために端材で積み木を作ったのが始まりでした。

ドラムに使う円形状のつばは、四角い木材を円形にくり抜いてできるので端材が出ます。当時4歳だった娘のために、その端材を使って積み木をつくることを思いつきました。娘が積み木にビー玉を転がして遊んでいる様子を見て、穴を開ければビー玉の道になるのではと考えました。当社の穴あけ技術を生かすことができました。

大学では保育士を目指して幼児教育を学んでいたので、保育士をしている友達にサンプルを手渡して反応を見たところ、「ビー玉が穴の開いたトンネルに入っていくのが面白い」と言ってくれたので、それならば商品化してみようと思ったのがきっかけです。

 

 

Q 商品化するうえでのアイデアはどこから生まれてきたのでしょうか。

A スノーボードにインスパイアされています。

工場にある機械を生かしてさまざまなパーツを作り、自分で遊びながらブラッシュアップしていきました。そこで生きたのがスノーボードの経験です。私は現役時代、管を縦に切った形状の中を滑るハーフパイプという競技を得意としていたのですが、まさに木をハーフパイプ状にしたパーツを多く使っています。また、斜面に溝を掘り込んだコースを滑ってタイムを競うバンクドスラロームという競技があるのですが、そのコースレイアウトがビー玉の道作りのヒントになりました。トンネル状の穴にどう傾斜をつけるか職人さんに相談したところ「角から角に斜めに穴を開けたらええねん」と教えてくれました。その職人さんならではの技術も生かすことができました。

 

 

Q BtoBからBtoCへ。作ることはできても売るのは難しかったのでは。

A メディアに取り上げていただき、順調なスタートを切ることができました。

2018年から開発に着手し、2020年7月に発売しました。コロナ禍とも重なり、当初もくろんでいた百貨店への売り込みができなかったため、まずは自社のECサイトを作ってInstagramで発信しました。目を止めてくれた百貨店から期間限定の売り場への出店を打診され出したところある新聞が取り上げてくれました。それがヤフーニュースにも掲載されたことで売り切れ状態になりました。「町工場が面白いことをしている」「巣ごもりに楽しめる玩具」という切り口でその後もメディアに取り上げていただきました。ただ、手作りのため生産が追い付かず、すぐに売り切れてしまう機会ロスの問題を抱えていました。

 

 

Q どのように解決をしたのでしょうか。

A 全自動の機械を導入しました。

ものづくり補助金を活用して2024年3月、一度に多くの型を自動でくり抜くことのできるNCルーターを導入し、現在試運転中です。2025年から本格稼働させる計画で、これによって量産が可能になります。本業のドラムの製造についても効率化が図れました。また、展示会で隣のブースに出展していた傘メーカーの方から、「そのNCルーターで傘の柄を作れないか」と相談を受け、その製造も始めたところです。第3の事業の柱として木材加工のOEMについても受託を増やしていこうと考えています。

 

Q 2024年7月に社長に就任されました。このタイミングになった理由は。

A 事業承継予定者のための塾に1年間通っていたのですが、父に「そろそろ卒業するけど、いつ頃代替わりしたい」と尋ねたところ「今すぐにでも辞めたい」という答えが返ってきました。私自身はまだ数年先にと考えていたのですが、73歳という父の年齢を考えるとたしかにすぐにでも楽をさせてあげたいなと思い、早めました。「ココノス」に携わるようになって私自身明らかに経営に前のめりになっていったので、父もタイミングをうかがっていたのだと思います。ただ、今は1人でやるにはすべきことが多すぎるので、あと2、3年は伴走してほしい、と伝えています。

 

 

Q 今後の事業展開についてはどう考えていますか。

A 海外市場の開拓を考えています。

現在、会社の売り上げのうち、「ココノス」事業の売り上げが4分の1を占めるまでになっていますが、いずれは半分を超えたいと思っています。そのためにまずは国内で、「日本の木製玩具ならココノス」と言われるまでに認知度を高めていきます。地方の間伐材を再利用して「地域限定版ココノス」を広げていくことも考えています。海外にも売り込んでいきます。2024年2月にはドイツの展示会に出展し、いくつか商談も進んでいます。そのためには人材をもっと増やしていかなければなりません。さいわい2人の30代の社員が現場のものづくりに従事してくれているので、彼らを一人前にして、今も現場に出ている私自身が早く経営に専念できるようになれればいいなと思っています。

 

Q 事業承継を考えている若い世代の方にメッセージをお願いします。

A 事業を土台に遊びを追い求める面白さを味わってほしい。

「ココノス」は、新しい事業を作ろうと思って始めたわけではなく、面白そうだなと思って突き詰めていった結果新しい事業ができたという感じです。スノーボード業界はいわば遊び道具を扱う世界でそのような仕事がうらやましくも思い、自分も自分の会社で面白いことができたらという気持ちが、ココノス事業を育てる原動力になりました。今は仕事が遊びであり、遊びが仕事でもあり、こんなにハッピーなことはありません。その土台を作ってくれたのが祖父であり父です。その土台に乗っかって面白いことができることに感謝しています。

 

 

【取材協力】
大徳木管工業株式会社
〒577-0824
大阪府東大阪市大蓮東3-12-14
HP:https://daitokumokkan.co.jp

(文・山口 裕史)

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